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第7話 魔女とのお茶会

Author: スナオ
last update Last Updated: 2025-04-17 08:18:03

 3日後の夜、不死身の魔女からの手紙はゲートを開いてくれた。恐らくこのゲートをくぐれば魔女と会えるのだろう。

 不死身の魔女からのメッセージを受け取った桜夜は、すぐに宗主に報告した。宗主は大変面白がり、魔女との対話路線でいき、桜夜を使者という立場とした。

 もちろん、少女たちは自分の母親の危険性をよく知っているので止めた。しかし桜夜は停戦交渉に行くと聞かなかった。

 それを受けて少女たちも、母との決別のため同行すると言い出した。しかし桜夜としては母親側に寝返られては不利になると、一人でいくつもりだったが……。

「桜夜さん、置いていかないでください」

「そうだぞ!」

「大丈夫。母からはわたくしたちがお守りします」

 ゲートに飛び込む前に少女たちに見つかり、仕方なく4人で魔のお茶会にいくことにした。

◆◆◆

 ゲートの先は魔女の座る玉座の間だった。魔女は妖艶な笑みを浮かべて桜夜たちを迎えた。

 本当にもてなすつもりがあったのか、血のように赤いワインとグラスが用意されていた。

「いらっしゃい。ずいぶん娘(奴隷)たちと仲が良いようね」

「お初にお目にかかります。お母様?」

 桜夜は魔女ににこやかに言葉を返し、右手を自身の胸に当てながら頭を下げる。

「ふふ、確かに面白い男ね。あんな出来損ないたちでよければくれてやるわ」

「ありがとうございます。それではこのまま、ご息女たちと四方院家に手出ししないことをお約束いただけますか」

「ええ、もう四方院家の秘密も娘も必要ない。そうあなたがいれば」

 桜夜がぞくりと震えた瞬間、魔女が黒いイカズチを放ってきた。そのイカズチを鞘に入った桜吹雪で受け止めたものの、サイカの放つイカズチとはくらべものにならない威力だった。

「……やめてお母さん!」

 サイカが叫ぶも、魔女は桜夜から目を離さない。

「あなたはフェニキアの分霊を倒した。それが出来るのは、不死者を殺せる者だけ」

 魔女の言葉に桜夜は確信する。この魔女の願いは……。

「さあ、私を殺しなさい。さもないと死ぬわよ」

 黒の大洪水が桜夜を襲い、その水の中に彼を閉じ込める。

 (くっ……息が……)

「やめろクソババア!」

 ホムラが叫び、ファイアボールを母親に投げつける。しかし魔女は除けもしない。その絶大な魔力と不死鳥フェニキアとの契約が自分を守ると確信しているからだ。

「……なにを遊んでいるの? あなたももっているんでしょう? 不死の力を」

「え?」

 黒い水をなんとかしようとしていたサイカとリオが同時に困惑する。この青年は、自分たちの母親と同じ力をもっていることが信じられなかった。

 しかし魔女の言葉に桜夜はにやりと笑ってみせる。その笑みは肯定とも取れた。そして不意に黒い水が弾けとび、桜夜から黄金のファイアボールが生まれ、魔女に向かって飛んでいった。そのファイアボールは鳥に姿を変え、進んでいく。それは聖なる不死鳥、鳳凰。西洋での呼び名は……。

「……フェニックス。やはりね」

 魔女の影から黒い鳥が出現し、フェニックスとぶつかり合う。

「魔獣フェニキア」

 水から解放された桜夜はそうつぶやくと、鞘に入ったままの桜吹雪を見る。この刀ならあるいは不死身の魔女を“退治”できるのかもしれない。しかし、彼は刀を抜かない。

「悪いね、お母様。僕は人殺しは禁じられているんだ」

「ふふ、魔女を人間扱いなんて。あなた変わっているわ」

「僕は変な奴だからな。だから、あなたを救ってあげますよ。お母様?」

「……救う?」

 そうつぶやいたのは誰だろう。魔女か、少女たちか。しかし桜夜は気にも留めずに桜吹雪を鞘から抜く。フェニキアを倒す。そうすれば魔女は不死身の魔力を失う。それは死を望む魔女を刺すより難しいことだろう。しかし……。

「力は救い、守るために。それが師匠の遺言だ」

 桜夜は鳳凰と共にかける。すべては師匠との約束のために。

 そして少女たちは、静かにお互いを見つめ合い、頷いた。

to be continued

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